リンダ・グラットンさんの新著「リデザイン・ワーク 新しい働き方」をデザイン・マネージャー視点でレビューしてみた【ステップ1 理解する編】
目次を見たときに「あ、デザイン思考だこれ」と思いました。
こんにちは、株式会社grooves(グルーヴス)のデザイン戦略室のゼネラルマネージャーのますぶちです。
「リデザイン・ワーク 新しい働き方」は働き方をリデザインする手法を紹介した本です。デザイナーとしてものすごく共感したので、デザイナー視点で感想を書いていきます。
私なりの解釈
新しい働き方は、画一的なものではなく、自社のカルチャーと、はたらく人とニーズや欲求、テクノロジーの3つを考慮して、自社ならではのモデルをつくり生産性を高めることなんだと解釈しました。
今回は【ステップ1 理解する編】についてレビューしています。
4段階のプロセスで仕事をリデザインする
本書では、UXデザインでよく使われるプロセスとほぼ同様の、以下4つのステップで新しい働き方のデザインプロセスが解説されています。
理解する
新たに構想する
モデルをつくり検証する
行動して創造する
ユーザーにより良い体験を提供するためには、顧客理解が必要だ!という当たり前を、自分たちの仕事の体験にも当てはめる考え方は、理にかなっていてすぐに腹落ちできました。
生産性の4つの要素
「ステップ1:理解する」編でとくに面白かった部分は、生産性を分解し、その特性を整理し具体的な業務イメージに落とし込んだところがとても分かりやすく共感できました。
活力(エネルギーが必要な業務)
(例)納期の厳しいプロジェクト
(例)高い集中力が必要な密度の濃い話し合い
集中(作業に没頭する業務)
(例)報告書を書く
(例)インタビュー調査の資料の読み込み
連携(他者と綿密に連携する業務)
(例)瞬時にフィードバック
(例)進捗状況の確認
協力(他者と協力して価値を生みだす業務)
(例)他者と協力し新たなアイデアを構想する
(例)他者と協力し問題解決策を考案する
生産性の要素がどのような業務と紐づくかが分かります。
自社は、どんな職群で構成されている?
組織図を見るといくつかの職群が見えてきます。組織は多用な人で構成されているので「働く人」にまとめがちですが、部門毎に分解してみると会社の解像度が一段あがったように思いました。
こうして書き出してみると、職群の重要業務によって生産性の重要要素が異なることが見えてきました。
人的ネットワークと暗黙知
社内の人と人のつながり(人的ネットワーク)によって暗黙知がどのように共有されているか?
新しい働き方を設計するうえで、マニュアルなどの明示的な知識ではなく、暗黙知を考慮することが重要と書かれていました。暗黙知とは、例えば、知見やノウハウ、思考様式などマニュアル化しにくいものを指しています。たしかに「あの人に聞けば分かる」といった感じで暗黙知が集中している人やグループって社内に存在しますよね。リモートワークになって見えにくくなったかもしれません。
暗黙知は互いの信頼のうえで共有されることから、妨げにならないように配慮や、こうした人的ネットワークを強化することが重要とのこと。
会社と個人のニーズの両方に配慮
高い成果を生み出せる文化を築きたい会社のニーズと、個人のニーズにも配慮した働き方をデザインするために。社内の人々を観察しニーズや欲求をさぐる。
社員が仕事と会社に期待することは何か?アンケートやグループインタビューなどを通じてニーズを知り、分析するといくつかのパターンが見えてくるとのこと。そのパターンに血を通わせるために、筆者のリンダ・グラットンさんのおすすめは「キャラクター化」することだそうです。偶然にも、私たちグルーヴスのプロダクト開発においても、ペルソナではなくキャラクターを設定し、プロジェクト全体に良い影響を与えた経験があります。キャラクター化することで、そのキャラに寄り添って現実味あるストーリーを描き出すため、プロジェクト参加者の共感度が違いました。
「私たちの脳は、データや数値よりもストーリーの方が理解しやすい。」と書籍中で述べられていることから、定量・定性データからパターンをつくりキャラクター化するのは、プロジェクトメンバーの理解を深めるのに有効だと感じました。
働く人の今後のニーズ
キーワードは、長寿命化・社会のあり方の変化・自動化の3つ。
これらの潮流が、働く人のニーズや未来のニーズに影響するらしいです。
❶長寿命により、長く働かないと人生の資金が足りなくなる。
その会社が、長く健康を保つことができるか。不健康にならないか。
具体的には、スケジュールを自分で決められる余地が大きく、8時間睡眠を確保でき、勤務時間が不規則でなく、仕事以外の時間も計画を立てられることが重要。
❷バランスの取れた家庭生活が送れるか
リモートワークの普及により、公的空間(=オフィス)と私的空間(=自宅)の境目が無くなったため、仕事の選択を行うとき、パートナーや家族のニーズを考慮に入れる可能性が高まる。
また、近年家族構成は様々であることから、制度や慣行はあらゆる状況の人にとって公平なものにすることが重要。
❸仕事の自動化の加速
業務の自動化、学習やスケジュール管理のデジタル化により、自分の仕事が自動化の影響を受ける可能性があると気づく人々が今後増える。その結果、仕事を通じてスキルを向上させる(アップスキリング)ことが可能な職場や、新しいスキルを学び直し(リスキリング)、まったく別の職に移行する支援をしてくれる職場が好まれる傾向になる。
マルチステージの人生にも対応する
典型的な3ステージの人生(教育→仕事→引退)から、例えば中高年になっても大学に通い学び直しをするなど生涯学習の考えが一般化されてきたり、仕事のステージも細切れ化するようになる。職業人生を中断し、育児や介護、副業、旅に出る人などが増えてきている。引退ステージも分解され、仕事のステージに長期休暇を取り、学びに充てたりする人が増えているとのこと。GroovesのエンジニアのKさんも90日の長期休暇を活用して創作活動に充てていました。身近に実践している仲間がいました!
まとめ
生産性は4つの要素に分けることができ、職群ごとに生産性を高める要素が異なり、全社一律ではないということが見えてきました。
例えば、活力が必要なセールスが、毎日出社に1時間以上かけていたら次第に疲弊してしまうし、エンジニアやデザイナーなどクリエイティブ職の人が「集中」の時間が取れずに細切れで業務をしていたら生産性が落ちます。マネジメント職の人の「連携」が取りづらく、チーム単位で業務がタコ壺化していたら組織負債になり結果的に生産性は落ちていきます。
異なる職群の人に同じ働き方、制度、時間の使い方を求めていたとしたら、どこかで成果があがりにくいチームがいたり、疲弊している人がいるかもしれないと思いました。
働く人のニーズや欲求を把握し、今後トレンド化することも考慮する。このステップ1の理解するフェーズをすっ飛ばして、新しい制度や働き方を導入しても生産性を逆に下げてしまう。もしくは一過性のもので終わってしまうという結構大きなリスクがあると感じました。何より、人が離れていきそうです。
理解のフェーズが足りず、ユーザーに使われない機能をリリースしてしまったときと似ている気がしました(苦笑)
次回は「ステップ2 構想する編」以降について、ニーズがあれば書きたいと思います。
それではまた!